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scraps.
■scraps #8
河原に寝そべる二人。サクコに抱きつくユウカ。
「きれいな空」
「そうだね。でもサングラスとったほうがもっときれいに見えるよ?」
「…………」
「ねぇ、どうしていつもサングラスかけてるの?」
「この色が好きだから」
「ふーん」
そう生返事を返すもう片方。ひじをつき、サクコの上に。
「とっていい? サングラス」
「だめ」
即答。ユウカはしかめっ面でサクコに覆いかぶさった。胸の中でつぶやく。
「ケチ」
「だめなものはだめなの」
「ねぇ」
「なに?」
「私のこと好き?」
「好きだよ」
これも即答。ユウカはサクコの胸に顔を押し付ける。うれしいのか、照れているのか。
「くすぐったい」
「……皆見てるね」
言われ、サングラスの奥で目だけが周囲をなめる。確かに、通りすがりに大人たちが見ている。その様子に、サクコは毒づく。
「馬鹿どもが。だから大人は嫌いだ。自分の見方が一番正しいと思ってる。くだらない」
「むずかしいこと言わないで。眠くなる……」
それが本当かどうかはさておき、言葉が消えないうちにユウカは寝息をたてはじめた。サクコの胸の中で。やわらかい吐息を感じながら、オレンジ色の青空を見つめる。いつからだろう、この関係が続いているのは。ふと、物思い。サクコはユウカと初めて出会った時のことを思いおこした。

 学校屋上。本来誰もいないところにサクコはいた。ことに今は授業中だ。つまり、サボりである。青空に白い雲が美しい。ただ、そのどちらもオレンジがかってはいるが。いつもいる地上とは少し違った、開けた世界に首をめぐらせる。と、視界の端に人影をつかまえた。転落防止用の柵を乗り越えた先に腰を下ろし、タバコをふかしている女子。サクコとは対象に、彼女は下を向いていた。
「そんなところでなにしてんの?」
と、サクコ。声に背中が一瞬震えたのが見えたが、すぐ元に戻る。サクコの方は見ないまま、彼女は答えた。
「授業サボってタバコ吸ってる」
そのまま、見たままだ。
「そこじゃなくてもタバコは吸える。危ないから、こっち来な」
言葉のわりにはあまり感情がこもっていない。彼女も同じような調子で、再び答える。
「別に。私がこっから落ちても誰も困らないし」
自暴自棄というか、ぞんざいな言葉にサクコは心中でため息をついた。
(そういう娘か……)
こういう手合いは好きではなかった。本心を相手に曲げて見せ、相手からの入力に頼るような。だが、ここで放っておいて、もし仮に死なれでもしたら寝覚めが悪い。今度はわざと聞こえるようにため息をつくサクコ。
「困るのよ。警察と消防・救急と病院と学校関係者。それと、不運にもあんたに関わった私。そしてあんたの両親」
あんたが死んだら皆が困るのよ。一応それを言ったつもりだった。何にしてもこっちに興味を持たせればいい。しかし、自体は急に展開した。
「両親」
一言。立ち上がり天を仰ぐ。
「困らせた事無いから、一度くらい困らせてもいいよね」
そういうと、彼女の体が危うく揺れた。
(うそっ……!?)
思うが早いか、飛び出すサクコ。両の腕が彼女を抱きとめ、タバコだけが地上へ。
(助かった……?)
半信半疑に思うサクコ。感触は十分にある。と、目を開くと柵をつかんでいる手が見えた。次いで声が降る。
「うそ」
それでサクコは理解した。しかめた顔を上げる。待っていたのは意地の悪い笑顔。
「落ちたら痛いでしょ?」
ふてぶてしく言ってのける。が、その態度が一変した。
「助けてくれようとしたんだ」
愛おしい者を見るような目が近づく。呆気にとられるサクコ。その唇に彼女のそれが重なった。暫時そのまま。彼女の顔がはなれる。
「変なサングラス」
言う。しかしサクコの耳には届いていなかった。雲と風が流れる。それがサクコと彼女――ユウカの出会いだった。以来、この関係が続いている。

 日が顔を隠し、夜の帳が近づくころにサクコは気がついた。どうやら眠ってしまっていたらしい。河原に独り、ユウカはいない。先に帰ったか。たっぷり数秒虚空を眺め、立ち上がるサクコ。家路につくためきびすを返す。と、

〜で、何のかんの〜

「知ってる? リストカットしたんだって」
「あー、あのサングラスの彼女でしょ? 知ってる。いま昏睡状態だって。**病院でしょ?」
「うん。でも“ついに”って感じだよね」
「そうそう。前から変だったもんね」
クラスの噂話。教室を飛び出すサクコ。

病院。受付で聞いた病室の前には大人たち。言い争い。責任転嫁。保身。etc……。サクコの感情が爆発する。
「うるさい! だまれ! だから大人は嫌いだ! 汚くて、ずるくて、自己中で! どうして気づいてあげられなかった!? どうして止めてやれなかった!? あんたたちは自分のことしか考えてないからだ! 子供には他人の気持ちを考えろって言うくせに自分たちはなんだ!? 自分の子供、自分の生徒一人のことも考えられないで、何が大人だ!」
一気にまくし立てるサクコ。涙で視界がぼやける。と、ウサギ男の声。
『そうはいうが、彼女は君にもサインを送っていたんじゃないかな? いやむしろ、君こそサインを一番受け取りやすかったのでは、ないかな?』
痛烈な言葉。サクコの胸が凍りつく。

〜んで〜

ユウカをつかまえ、抱きしめるサクコ。なんのかんのでサングラスをとって。
「私のこと、好き?」
と、ユウカ。力いっぱいに答えるサクコ。
「好き。大好きだよ」


――という感じ。どんな感じだよ。


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