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scraps.
■scraps #60
 夜を駆ける、少女一人。大きなカバンを抱えて。追われているようだが、追う者の姿は見えない。
 走る先に影がひとつ。少女はその影に飛びついた。正確にはその影の腕に。が、すかされた。袖だけをつかむことになった少女は勢い余って体勢を崩す。
「危ない」
 と、影――男だ――の腕が伸びる。少女がつかんだ袖とは逆の腕。少女の体重を支える。
「大丈夫ですか?」
 と問う男に少女は返さず、差し出された腕に取り付いた。戸惑う男に何も言わせず歩くよう促す。小声で、少女。
「歩いて。振り向かないで」
 と、自分の言葉どおりに少女も前だけを見ている。男もそれに従う。歩きながら。男も小声で。
「なんなんです?」
「追われてるの。悪いけど助けて」
「そんないきなり……」
 と振り返ろうとする男の気配を感じた少女は腕を引きそれを阻止する。その間に少女は見つけたカーブミラーで後方をチェック。すでに人ごみ。追っ手の姿は見えない。
「とりあえずこのままアナタの家まで行って」
 と、少女。男は応えず、言われるままに歩いた。
 マンション。エントランスからエレベーターで四階に上がり、男の部屋へ。鍵を開け、暗い部屋の中へ入る。電気をつけるとこざっぱりと片付いた1Kの部屋が現れた。
「へー、結構きれいね」
 追われていると言っていたが、そのセリフには緊張感が感じられない。とりあえず通勤カバンを下ろし、少女を眺める男。当の少女はフラフラと部屋の中を見学といった風。と、棚に置かれたカメラを手に取った。
「いいカメラね。あなた写真家さん? には見えないわね」
 と、少女。男も応える。
「そう、写真家を目指してた。昔はね。今は公務員だよ。カメラに詳しいの?」
「少し。父が写真家だったのよ」
「へぇ、なんて人かな。知ってるかもしれない」
「死んだわ。戦場で。父は戦場カメラマンだったの」
「……ごめん」
「いいのよ。助けてもらったし」

 なんか、うーむ。


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