AREA513/contents.
scraps.
■scraps #5
「騒がしいな」
 人波に流されながら長谷部。
 街路のスピーカーからは避難指示が、無機質な合成音声で流れされている。住民たちはそれに従い一方向への波を作っていた。
 確かにザワザワと騒がしいが、長谷部が言うのはここのことではなく、非難方向とは逆のところのことだった。
 人波の中を、何とか長谷部から離れないようについてきている少女――百合が長谷部の目を見上げる。
「調べてみようか?」
 と、言うが早いか百合は回廊にアクセス、現在自分たちのいる地区にしぼり、それらしい通信をインターセプト。
「あった」
 歩かず走らず、波に逆らわずに動きながら百合。
「社会保健衛生局みたい。通信封鎖がかかってるからこれ以外にないよ」
「衛生局か」
 長谷部舌打ち。百合の手を引き、手近な小路へ入る。
「それで?」
 通信の詳しい内容を求める長谷部。百合は傍受した通信から必要そうな内容をよりぬき、話す。
「今現在物理封鎖されているのは2263〜2363地区。ここから2ブロック西が一番近い封鎖ライン。予想A級の情報伝染体がいるんだって」
「なるほど、それで衛生局か。その伝染体ってのはお前のことじゃないのか?」
 真面目な顔で冗談を言う長谷部に、眉を精一杯つり上げて反論する百合。恐いというより、可愛らしい仕草だ。百合当人は真面目に怒っているのだが。
「私そんなことしないもん!」
「わかってる。冗談だ」
 軽くあしらい、続ける。
「このまま逃げてもいいが、衛生局が動いてるとなると"マザー"の干渉がある可能性が高い。行ってみるか?」
 一応うなづく百合の眉は上がったままだ。
 長谷部はしばらく黙って百合を見つめた後、口を開いた。
 パートナーの機嫌をそこねたままでは動きづらい。それに、冗談とはいえ配慮を欠いたことをいってしまったという罪悪感もある。
「悪かったよ百合。わかってる、お前はそんなことしないものな。お前はいい子だから」
 そういって、百合の頭をなでる。
 大きな長谷部の手。どこかごまかされてると思いながらも、そうされると顔が――気持ちも――ゆるんでしまうのを止められない百合だった。


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