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■scraps #57
 その日、三園操は所属している吹奏楽部の練習に出ていた。担当の楽器はトロンボーン。現在は部員各員個々に自主練習の時間だった。渡り廊下で譜面台を前に練習する操。その脇では橘竜子がなにやら厚い本に目を落としていた。穏やかな時間だ。金管の音が途切れる。
 それに竜子が顔を上げた。
「たっちゃん、何読んでるの?」
「マルクスの資本論」
「……面白い?」
「まんまり面白くはないわね」
 と、竜子は本を閉じた。話題を変える。
「それで定期演奏会は再来週だったっけ?」
「うん。明後日その選抜なんだよ」
「ふうん。それで最近頑張ってるんだ」
 と操の額を撫でる竜子。それに操は照れ笑いを返した。
「明後日、私が受かったら演奏会聴きにきてくれる?」
「もちろん」
 答える竜子にやる気を奮う操。穏やかな午後。秋の迫る季節だった。


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