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scraps.
■scraps #50
(なんだろう、これ。すごく空っぽだ。後にも先にもなにもない)
 ベッドに身を横たえ、操は天井を眺めていた。しかし実際に見ているのは天井ではなく虚空。視覚は働けど意味を持たず、ポロポロと言葉の粒だけが頭の中に落ちていく。
 虚空。今の自身はそれと同じだ。操の頭の中に落ちていく言葉。自分の言葉を自分の言葉が否定していく。
 今の私は虚空でもない。空気もない、塵もない。真空にだって生まれる何かがあるというのに。今の私は空っぽだ。流れ出るものも、流れ込むものもない。私はつながっていない、何にも。私はなんなんだろう。何もない私はなんでここにいるんだろう。
 問えど答えはない。当たり前だ。私は空っぽなのだ。
 ただ、いるだけ。どういうわけかそこにいる私。それにひどく違和感を覚える。いる場所につなぐものがない。ただ、そこにあるだけ。何にも、誰ともつながっていない自分。これを孤独と呼ぶのだろうか。いや、そうではない気がする。孤独よりももっと無意味。
 生きている意味がない。そもそも生きるなんてそういうことだ。意味は無くとも生きるのが命だ。操もそれは知っていた。
 しかし、これはなんなんだろうか。
 希望がない。
 頭を落ちていく言葉。それは絶望的な響きを伴うべき言葉だった。だが操の頭に落ちたそれは淡々としていて、次の瞬間には消えていた。
 操の表情は変わらない。弛緩したように薄く空いた唇からはため息すらもれてこない。虚空を写す眼はしかし死んではおらず、さりとて生きているわけでもない。ただ言葉は落ちていく。
 自分を殺すのは罪深いことだ。それはやってはいけないこと。でも、生きていなければならない理由がどこにあるんだろう? 空っぽの私にそんなものはない。
 操の表情は変わらない。
(自殺する人の気持ちがわかった気がする)
 それを最後に言葉は落ちてこなくなった。


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