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■scraps #41
あらすじ
 強力な対印度戦略を打ち出した外務省だが、その後ろには印度人たちの陰謀が隠されていた! それに気づいた内務省内務監査室の監査官・柊あずまは印度の傀儡(かいらい)と化した外務省に対し単独で対印度行動を開始するのだが……!
 とかなんとか、なんとなくの思いつき。ちなみに政治的な含みや意味、思想等一切ありませんので、あしからず。

本文
 その日。内務省内務監査室の監査官・柊あずまは急いでいた。まず目覚まし時計が鳴らず、それでもギリギリ間に合った電車は定刻どおりに来ず、おまけに勤務先――監査室は最寄の駅でも1キロメートルは離れている。
 要は、遅刻しそうなのだ。
 改札を走りぬけ、並木を駆ける。遅刻かどうかは、着くまでわからない。わからないが、遅刻するわけにはいかなかった。ペナルティもあるが、なにより、室長にいびられるのだ。こけた顔にぎょろ目の、トカゲの様な室長。トカゲらしく、舐めるように人をいびるのだ。あれを受けるくらいなら、多少髪を乱そうともかまわない。
 と、必死に走るあずまの目に、見知った――面識はないのだが職務上知っている――顔が入ってきた。足を止めるあずま。4車線道路を挟んだ向かい側。男が2人並んで歩いている。片方は確か、外務省のナンバー2と言われる男だ。明らかな中年肥り(接待肥りか)に後退した額。タヌキの様な顔。こんなところで珍しい。しかし、あずまの足を止めたのはもう一人の男だった。浅黒い肌の色、日焼けではない。顔はアジア系。あれは。
(印度人……?)
危険な人種である。つい先日、外務省が打ち出した「対印度人戦略」では云々。なんかこの辺はいろいろ考えんといかんので割愛。そんな外務省の人間が印度人と一緒にいるなんて。眺めている間に、2人は角を曲がり、消えた。しばらく、その角を眺めていたあずまだが、物思いのうちにトカゲの顔が浮かび我に返った。
 走る。遅刻は免れそうにない。

 内務省が秘密裏に買い取り運営しているビル。その地下に内務省監査室はあった。エレベータは、無い。階段を駆け下り、端に錆の浮いた灰のドアの前で深呼吸。ノブをひねり、ゆっくりと押す。
 中は事務机が7脚。ドアに対面一番奥にある机が室長のものである。それからドアの間に残りの6脚の机がそれぞれ向かい同士にくっついて並んでいる。少し開いた間から中を覗くと、室長机は空だった。ドアをいっぱいに開き、確認するが、やはり室長はいない。幸運だ。どうやら室長も遅刻しているらしい。そう思った矢先、背中に声がかかった。
「5分遅刻だ、柊君。正確には5分と7秒遅刻。君もえらくなったものだね」
飛び上がるあずま。振り向くとトカゲ――室長が立っていた。いびられる。が、今回は室長も同罪だろう。そう言い返そうとして、あずまは気づいた。トカゲは手にハンカチを持っている。トイレに行っていたのだ。反論のために開いた口がそのままになるあずまに、トカゲ室長は言った。
「私はトイレに行っていたのだ。君とは違い、ちゃんと定刻の10分前に来ている。毎日。上司は部下の規範となるようにと思って行動しているのだが。君も少しは見習ってほしいな」
「……すいません」
うなだれる。その脇を抜けて席に向かうトカゲの背に心の中で毒づき、あずまも席についた。室長机に向かい、左列の真ん中。ため息。
「記録更新ですね、柊さん」
というのは右隣に座る新人の桂井青年。名は、信二といった。大学卒業と同時に入ってきた、エリートだ。まだ初々しい。年齢も5つしか離れていないが、子供に見える。実際にはいないが、弟とはこういうものだろうか、とあずまは思っていた。
「トカゲも君みたいな顔なら、なに言われても気にならないのにね」
と小声であずま。桂井は笑顔で応えた。
「それで、今日はどうして遅れたんですか?」
桂井青年は世間話モードだ。遅刻に加え、私語で注意されるのは勘弁したいが、さっきの今で仕事する気になれないのも事実だった。あずまは世間話を選ぶ。
「目覚ましが鳴らなかったのよ。昨日ちゃんと合わせておいたのに。電車は遅れるし」
「災難ですね」
「というか、たぶん陰謀だわ。ギリギリで間に合いそうだったのに……」
と、あずまが言葉を止める。桂井も疑問符を上げた。
「どうかしましたか?」
「いえ。そう、そうだった。外務省のナンバー2を見たのよ。そのせいで遅れたんだわ」
思い出したままの上の空で言うあずまに、桂井はさらに疑問符を追加。
「ナンバー2というと、村瀬川政務官ですか?」
「そう」
「確かにめずらしいですけど……」
見とれるようなものでもないでしょう。そう言おうとした桂井青年を遮ってあずま。
「印度人と一緒にいたのよ」
という台詞に、桂井も怪訝な表情になった。
「確かですか?」
世間話モードから仕事モードにシフトする。敵性であるはずの印度人と外務省の人間が一緒にいたとなれば、内務省としては調べぬわけにはいかない。あずまも仕事モード。
「たぶん。遠目だったし、確証はないんだけど。あれは印度人だったと思うわ」
「そうですか……」
と、しばらく考え込んでから桂井。
「いちおう室長に報告しておいた方がよくないですか?」
と、今度はあずまが考え込んで、
「うーん、いい」
「ですか」
「うん。もうちょっと、調べてみるわ。なにかあったら上から通達があるだろうし。見間違いかもしれないしね」
今のところ、その可能性も大きい。もし捜査して見間違いでしたなどということになったら、あのトカゲから何を言われるかわかったものではない。ともかく、仕事は目の前にあるものから。それがトカゲの言いつけだった。
たぶんつづかない


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