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scraps.
■scraps #34
 縁日でにぎわう人込みの中に暗がりから一人紛れ込む。僅差でもう一人。
 先の一人は人波を魚のように縫い、後の一人は波を押し分け先を追う。明かりのあるところに入れば先の姿形は人のそれと変わりない。歪みではないよう。しかし歪みだ。勘は依然戻らないが、命は確信していた。
 離されないよう、見失わないよう人の形をした歪みを追う。
 雑踏の先には物見の塔。歪みはその中へ。命も続く。内も人が多かったが、障害になるほどではなかった。階上への階段に歪み。階段は展望階12階まで直通。駆け上がる。

 展望階に人はいなかった。歪みだけ。背を向けている。気付いていようがいまいが関係ない。柱を構え、跳ぶ。上段、袈裟に振り落とす。が、そこに歪みはいなかった。床板を砕く柱。歪みは後ろ。
「くっ……!」
声が漏れる。体をひねる。間に合わない。脇腹に突き込まれる衝撃。同時に猛烈な悪寒と吐き気が命を襲う。内蔵が暴れ、外に飛び出しそう。心臓が異常なリズムを刻む。
 心が喰われる。
 自分が自分でなくなる感覚。
 叫ぶ。
 声は出ない。


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