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■scraps #31
 対歪事象課本部隊長室。隊長・中須賀 真之介のデスクの前に命は立っていた。その向かいでデスクにひじを突いているのは先の男。どこか、呼び出しをくらい叱られる生徒と叱る教師のように見える。が、それにしては命の態度は堂々としたというか、無関心といった風。普段からの半眼でデスクの中央あたりに視線をとめている。
 対して目を閉じ、なにやら黙考していた中須賀は命にばれぬように嘆息し、口を開く。
「綿貫命」
と中須賀は命をフルネームで呼んだ。特に命は答えない。中須賀もそれはわかっていた。続ける。
「単独行動。特に歪みに対した際の単独行動はあれだけ慎めと言ったことを覚えてないか?」
これにも命は無言。肯定も、否定も、弁解もなし。しばし沈黙。耐えかねたのは中須賀の方。
「もういい」
叱るというより諦めの語調。
「次から歪みを追うときは常に二人以上でやれ。それと、報告書を提出しろ。以上」
「はい」
結局命はそれだけで、一礼し部屋を出た。
 命の出ていったドアを眺める中須賀。
 命は「はい」と言った。普段なら肯定の際にも「はい」などとは言わない。「わかった」か、うなずくところだ。例え相手が上官であっても。とすると今回のこれは一応、階級を踏まえた彼女なりの言葉だったのだろうか。それともただの気まぐれか。
 しかしどちらにせよ大差のないことだった。
(手のかかる娘だ、まったく)
ため息。中須賀は深く椅子に身を沈めた。


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