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novel.
■春の川原
 真昼に星を見た。
 光の粒が視界を激しく飛び回っている。視界だけではない。星は平衡感覚を失った頭の中にも飛んでいた。重力に引かれている自分を意識する。光の飛び交う先の空は抜けるような青。手をのばそうとしたが体がいうことをきかない。倒れゆく。
 ひどく緩やかな一瞬だった。軽く後頭部に衝撃を受けると草のにおいが沸き立った。きらめいていた視界は昼のそれに戻り、端には白く丸い花がのぞく。シロツメクサの花。ついさっき彼女が教えてくれた。圧縮空気の抜ける音。バスのドアの開閉音。低いエンジン音が遠ざかる。たぶん彼女も乗せて。
 春の川原で二人きり。いきなりなのは悪かった。たしかにキスはまだ早い。けど、そんなに思い切り引っぱたくことないじゃあないか。
 と、視界に影がかかった。申し訳なさそうに彼女が見下ろしている。スカートが短い。自分でも頬が赤くなるのがわかった。気づいた彼女の足が動く。今日、二度目の星を見た。


※これはAbility(種原歩美奈 様)の四百字物語企画に参加させていただいたものである。


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